ウソ日記「意識の高い一杯のかけそば」

あることないこと書きます。

「意識の高い一杯のかけそば」

あれは私が長い修行の後、ようやく一人前の蕎麦屋として妻と二人で店を始めたばかりの頃の出来事です。

大晦日の夜、年越しそば目当てでいつもよりは少しだけあった客足も早々に途絶え「今日は店を早めに閉めようか」などと二人で話し合っている時に一組の家族が入ってきました。

見るからに裕福ではなさそうなその家族は、母親、兄、妹の三人で肩を寄せあうように店の一番隅っこのテーブルに腰掛けました。

妻がお水とお品書きを持っていくと、ほどなく家族会議が始まりました。

お母さんが用意したアジェンダに沿って兄がファシリテーター、妹がミニッツ担当ロールを担っているようでした。

やがて基本ベースで全員がアグリーした様子で、お母さんが妻にネゴってきました。

「あの・・・一杯のかけそば・・・3人でシェアOKですか?」

妻は快諾し、私の耳元でそっとささやきます。「せっかくの大晦日だし少しサービスしてあげたら?」私はうなづき、親子に気がつかれないように1.5人前のかけ蕎麦を作りました。

数分後には顔を寄せ合い、一杯のかけ蕎麦を食べている三人の嬉しそうな話し声がかすかに聞こえてきました。

「割とコスパいいよね」と妹。

食べログ3.5以上は固いわ」と兄。

お腹が満たされるにつれて会話も弾んでいる様子です。

兄「スタートアップ系?」

母「ではないでしょ、でも立地的にオポチュニティはあるよね。」

妹「ツイートしたら意外とバズるかもよ。」

兄「神ってるねそのたくらみヘッジはかけてる?」

妹「そこは先方マターでしょ。」

三人は食べ終わると450円払い、店の看板を写メって帰って行きました。私と妻は声を合わせて言いました。

「ありがとうございました。どうかよいお年を。本当に。」

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ippei

ippei

趣味でコントを楽しむサラリーマンを挫折。難航する婚活とリストラの恐怖と、両親の介護への不安。そんな時に父親が癌に。 日本で楽しく生きるとは? 答えを探すためにコーチングを学んで40歳からキャリアチェンジ。その道程で出会いがあり入籍。夢は、日本や世界の状況がさらに深刻になった時に困っている人達に「楽しい生き方」を共有できる人間になること。